
はじめに:定時ダッシュの夢と現実
こんにちは!生後118日の娘の育児と仕事に奮闘中のパパ、シードです。
「今日こそは定時で上がって、家族とゆっくり過ごすぞ!」
多くのワーキングペアレンツが、毎朝そんな誓いを立てているのではないでしょうか。私もその一人。今日は残業時間を調整して、いつもより早く帰れる「スペシャルデー」のはずでした。朝の支度をしながら、頭の中では早く帰宅してからの家族団らんの光景が広がります。
「娘をお風呂に入れて、妻とゆっくり夕食を食べて…ああ、なんて素敵な一日なんだろう。」
しかし、現実はそう甘くはありません。まるで「早く帰れる日」を狙いすましたかのように、仕事のタスクは牙を剥きます。今日は、そんな私の身に起きた「ヒヤリハット」な出来事を通して、仕事、そして育児にも通じる「コミュニケーション」の奥深さと重要性について、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
鳴り止まないチャット通知!嵐のような一日の幕開け
その日の朝、私が出社してPCを開くと同時に、戦いのゴングは鳴り響きました。まずは、チームの派遣スタッフの方から報告されたトラブルの状況確認から。原因は何か、影響範囲はどこまでか、顧客への影響は…?関連部署にヒアリングしながら、一つひとつ情報を整理していきます。
そんな中、息つく暇もなく、今度は上司からのチャットが怒涛のように押し寄せます。
「シードさん、例のA案件、進捗どうなってる?」 「B社の件、先方からの回答はまだ?」 「Cプロジェクトの資料、今日の午前中に展開できる?」
まさに「あれどうなってる?」「これはどうなってる?」の質問ラッシュ。もちろん、上司としてはチーム全体の状況を把握するための当然の確認です。しかし、問題は私自身がすべての状況を完璧に把握しきれていなかったことでした。
「申し訳ありません、今すぐ確認します!」
そう返信するものの、内心は冷や汗だらだらです。担当者にチャットを送り、過去のメールを掘り起こし、共有フォルダを漁る…。本来であれば、私が情報のハブとしてスムーズに回答すべきところを、あちこちに聞き込み捜査をするところから始めなければならず、貴重な午前中の時間はあっという間に溶けていきました。
この時点で、すでに「定時ダッシュ」の夢は黄色信号。しかし、この後に待ち受けていた本当の「ヒヤリ」に比べれば、これはまだ序章に過ぎなかったのです。
17時間 vs 15時間:小さな数字のズレに潜む大きな落とし穴
なんとか午前中の嵐を乗り越え、自業務に集中し始めた午後。派遣スタッフの方の残業時間に関する申請を確認していた時、私は「ん?」と眉をひそめました。
申請されている時間は「15時間」。 しかし、私の認識では、今月は業務量が増えるため、事前に相談して「17時間」で合意していたはずでした。
たかが2時間、されど2時間。もちろん、今回は残業時間という調整可能な項目だったので、大きな問題にはなりませんでした。しかし、もしこれが「納品数17万個と15万個」「納期17日と15日」といったクリティカルな数字だったら…?想像しただけで、背筋が凍る思いでした。
原因を辿ると、どうやら私からの伝達がうまくできていなかったようです。業務量の増加に伴い、派遣会社とも調整して15時間から17時間に増やしてもらったのですが、その最終決定を本人に明確に伝えていなかったのかもしれません。「まあ、わかってくれているだろう」という、無意識の思い込みがあったのです。
「伝えたつもり」「言ったはず」――。
この言葉こそが、ビジネスにおけるコミュニケーションエラーの根源です。今回は幸いにも実害はありませんでしたが、一歩間違えれば、予算超過、納期遅延、そして何よりチームの信頼関係の崩壊に繋がりかねない、重大なインシデントになっていたでしょう。
この一件を通して、私はコミュニケーションが「成立しているか」をきちんと確認することの重要性を、痛いほど思い知らされたのです。
【深掘り解説】なぜ、私たちのコミュニケーションはすれ違うのか?
今回の私の失敗は、決して特別なことではありません。多くの職場で、日々大小さまざまなコミュニケーションエラーが発生しています。では、なぜこのようなすれ違いは起きてしまうのでしょうか。いくつかの理論や概念を交えながら、その原因を深掘りしてみましょう。
雑学①:情報は必ず劣化する「シャノン・ウィーバーのモデル」
1949年にクロード・シャノンとワレン・ウィーバーが提唱した「コミュニケーションの線形モデル」というものがあります。これは、情報が「送り手」から「受け手」へ一方向に伝達されるプロセスを図式化したものです。
情報源 → (メッセージ) → 送信機 → (信号) → [ノイズ源] → 受信機 → (メッセージ) → 宛先
このモデルの重要なポイントは、情報の伝達経路上には必ず**「ノイズ(妨害)」**が存在する、としている点です。
今回の私のケースに当てはめてみましょう。
- 送り手(私):残業時間は17時間でお願いします。
- 受け手(派遣スタッフ)
- ノイズ:
- 物理的ノイズ:チャットの通知が多すぎてメッセージが埋もれた、など。
- 心理的ノイズ:私が「早く帰りたい」と焦っていた、相手が別の業務に集中していた、など。
- 意味的ノイズ:「増やしてもらった」という表現が曖昧で、「検討してくれたが、最終的には15時間のままだった」と解釈された可能性。
どんなに明確に伝えた「つもり」でも、メッセージはさまざまなノイズによって歪められ、劣化し、送り手の意図通りには届かない可能性があるのです。この大前提を理解することが、すれ違いを防ぐ第一歩となります。
雑学②:「言わなくてもわかる」が通用しない時代
日本は伝統的に**「ハイコンテクスト文化」**と言われています。これは、言葉そのものよりも、文脈や行間、場の空気といった非言語的な要素を重視するコミュニケーション文化のことです。「言わなくてもわかるでしょ」「空気を読んで」という価値観が根強く存在します。
しかし、現代の職場環境は大きく変化しました。正社員、契約社員、派遣社員、時短勤務、リモートワーク…など、働き方やバックグラウンドが多様な人々が一緒に働くようになり、「阿吽の呼吸」や「以心伝心」はもはや幻想です。
今回の私と派遣スタッフの方の関係も、まさにこの典型例かもしれません。毎日顔を合わせていれば、何気ない会話の中で残業時間の確認もできたでしょう。しかし、テキストベースのコミュニケーションが中心となり、前提条件が異なるメンバーが増えれば増えるほど、「ハイコンテクスト」なやり方は通用しなくなります。
これからの時代に求められるのは、文脈への依存度が低い**「ローコンテクスト」**なコミュニケーション。つまり、背景知識がなくても、言葉だけで意味が明確に伝わるコミュニケーションへと、意識的にシフトしていく必要があるのです。
明日から実践できる!コミュニケーションエラーを防ぐ5つの処方箋
では、どうすれば「伝えたつもり」の悲劇を防げるのでしょうか。今回の反省を踏まえ、明日からすぐに実践できる具体的なアクションを5つご紹介します。
- 「事実」と「解釈」を分けて話す 私たちは無意識のうちに、客観的な「事実」と、自分の「解釈」や「意見」を混ぜこぜにして話してしまいます。「残業時間を17時間に増やした(事実)」と伝えるべきところを、「残業、多めに頼むね(解釈/曖昧な依頼)」となっていなかったか。まずは事実だけを正確に伝えることを意識しましょう。
- 5W1Hで具体的に伝える コミュニケーションの基本中の基本ですが、改めて徹底したいのが「5W1H」です。
- Who(誰が)
- When(いつまでに)
- Where(どこで)
- What(何を)
- Why(なぜ)
- How(どのように) 今回の件も、「私から派遣会社に依頼し(Who)、今月は(When)、残業時間の上限を(What)、業務量増加のため(Why)、17時間に(How)変更しました」と伝えていれば、誤解は生まれなかったはずです。
- 伝達後に「クローズドクエスチョン」で確認する 指示や依頼をした後、「何か質問はありますか?」と聞くだけでは不十分です。これは「オープンクエスチョン」であり、相手は「特にありません」と答えてしまう可能性があります。 重要なのは、「クローズドクエスチョン(はい/いいえで答えられる質問)」で念押しすることです。 「では、今月の残業申請は17時間で進めていただけますか?」 この一言があれば、もし相手の認識が「15時間」のままだったら、「え、17時間ですか?」という反応が返ってきたはずです。
- 相手の言葉で復唱してもらう(パラフレーズ) さらに効果的なのが、相手に内容を要約・復唱してもらうことです。「認識のズレを防ぎたいので、お手数ですが、今の依頼内容を一度ご自身の言葉で説明してもらえますか?」とお願いしてみましょう。これにより、相手がどこをどう理解したのかを正確に把握することができます。
- テキストと口頭のハイブリッドを意識する チャットやメールは記録が残る便利なツールですが、ニュアンスや重要度が伝わりにくいというデメリットもあります。特に重要な依頼や複雑な内容は、テキストで送った後に、「先ほどチャットでお送りした件ですが、5分だけいいですか?」と口頭で補足説明するのが理想的です。このひと手間が、致命的なすれ違いを防ぎます。
育児と仕事の意外な共通点:言葉なき声に耳を澄ますということ
今日の出来事を振り返りながら、ふと、これは育児にも通じる話だな、と思いました。
生後118日の娘は、まだ言葉を話せません。彼女のコミュニケーション手段は「泣くこと」だけです。しかし、その泣き声には、「お腹が空いた」「オムツが気持ち悪い」「眠い」「ただ抱っこしてほしい」など、さまざまなメッセージが込められています。
私たち親は、その声にならない声に必死に耳を澄まし、「ミルクかな?」「オムツを替えてみようか」「抱っこして揺れてみようか」と、仮説を立てては検証を繰り返します。まさに、試行錯誤のコミュニケーションです。
これは、仕事におけるコミュニケーションの本質と、どこか似ているのではないでしょうか。
相手の言葉を額面通りに受け取るだけでなく、「なぜこの人はこう言うのだろう?」「本当は何を伝えたいのだろう?」と、その背景にある意図や感情を汲み取ろうと努力する。自分の「つもり」で判断せず、相手の反応を見ながら、伝え方やアプローチを変えていく。
言葉が通じない赤ちゃんと向き合う日々は、もしかしたら、私たちのコミュニケーション能力を根底から鍛え直してくれる、最高のトレーニングなのかもしれません。
まとめ:今日のヒヤリを、明日のファインプレーに変えるために
残業調整で早く帰れるはずだった一日は、コミュニケーションの重要性を再認識させられる、学びの多い一日となりました。
「たかが連絡ミス」と侮ってはいけません。小さな認識のズレが、やがて大きな亀裂となり、プロジェクトを頓挫させ、人間関係を破壊することさえあります。逆に言えば、丁寧で正確なコミュニケーションを積み重ねることが、チームの生産性を高め、心理的安全性を育み、最終的には個人の働きやすさにも繋がっていくのです。
今日の失敗は、正直なところ苦い経験でした。しかし、この「ヒヤリ」とした感覚を忘れずに、明日からの行動を変えていくことこそが重要です。
- 伝えるときは、5W1Hを明確に。
- 伝えた後は、「〇〇ということですね?」と確認を怠らない。
- 相手の背景を想像し、言葉の裏にある意図を汲み取る努力をする。
仕事も、育児も、ゴールが見えない長い道のりです。しかし、一つひとつの丁寧なコミュニケーションの積み重ねが、きっとその道のりをよりスムーズで、より豊かなものにしてくれるはずです。
さあ、明日もまた、仕事と育児という二つの戦場で、最高のパフォーマンスを発揮するために。まずは「伝わっているか?」の確認から、始めてみませんか。


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