仕事で大失敗したパパが、生後108日の娘に教わった「本当に大切なこと」

シードのホームワーク

はじめに

はじめまして。シードと申します。現在、生後108日になる娘と、優しい妻との3人暮らし。とはいえ、今は妻と娘が里帰り中のため、しばしの独身貴族(という名の、少し寂しい日々)を送っています。

仕事では、製造業の技術職として、日々図面と向き合っています。そして、まさに今日、その仕事で大きな壁にぶつかりました。上司に「君の話は、何が言いたいのか全く伝わらない」と、核心を突くフィードバックをもらったのです。

ぐさりと胸に突き刺さる言葉に、一日中頭を悩ませました。しかし、仕事終わりに1週間ぶりに会った娘の小さな成長が、そんな僕の悩みに、思いがけない光を当ててくれました。

これは、仕事で大失敗をやらかした一人の父親が、そこからの学びと、家族との時間の中で見つけた「本当に大切なこと」を綴る、長い長い一日の記録です。同じように仕事のコミュニケーションで悩む方、育児と仕事の両立に奮闘するパパやママに、少しでも共感し、何かを持ち帰っていただけたら幸いです。

第一部:氷のように冷たい会議室で – 出図レビューという戦場

「出図レビュー」とは何か?

僕の仕事の中心には、「図面」があります。それは単なる絵ではなく、製品の仕様、寸法、材質、公差といった、ものづくりの「言語」そのものです。この図面一枚の精度が、製品の品質、コスト、そして納期を大きく左右します。

「出図レビュー」とは、この設計図を正式なものとして世に送り出す(出図する)前に、上司や関連部署の承認を得るための、極めて重要な会議です。ここで承認が得られて初めて、部品の製作や金型の発注といった次の工程に進むことができます。つまり、プロジェクトの進行を左右する「関所」のようなものなのです。

今日のレビューは、まさにその「関所」でした。僕が担当するプロジェクトは、技術的な課題はすでにクリアしていました。製品の性能や品質に関する懸念はほぼない。しかし、たった一つ、大きな課題を抱えていました。それは「日程」です。部品の納期や生産準備のリードタイムが複雑に絡み合い、全体のスケジュールが非常にタイトになっていたのです。

「技術的な問題はない。日程は厳しいが、関連部署と密に連携して、なんとか製品化(号口)まで乗り切ろう」というのが、プロジェクトチームとしての共通認識でした。今日のレビューでは、その方針を所属長に説明し、承認をもらうことが目的でした。

砕け散ったプレゼンテーション

レビューの時間がやってきました。会議室の空気は、いつも通り少し張り詰めています。僕の番が来て、プロジェクターに日程表を映し出しました。

「こちらが全体のスケジュールになります。少々タイトな部分もございますが、関連部署とは連携し、進めてまいります」

自分としては、プロジェクトの全体像を簡潔に説明したつもりでした。「さらっと、なめるように」全体の流れを説明し、大きな問題がないことを伝えようとしたのです。

しかし、所属長の表情は曇ったままでした。そして、静かに、しかし重い口調でこう切り出されたのです。

「…で、結局、君は何が言いたいんだ?」

一瞬、頭が真っ白になりました。

「えっと…ですので、この日程で進めさせていただければと…」

しどろもどろに答える僕に、所属長はさらに言葉を重ねます。

「そうじゃない。課題はあるのか、ないのか。もし課題があるなら、それに対してどういうアプローチをしているのか。そして、成功する目処は立っているのか。君の話からは、その核心が全く見えてこない。ただ日程表を読み上げているだけに聞こえる」

その言葉は、僕の胸のど真ん中を正確に撃ち抜きました。

「目的意識の欠如」という致命的な病

会議室からの帰り道、僕は所属長の言葉を何度も頭の中で反芻していました。なぜ、伝わらなかったんだろう?

僕は、ただ「日程を説明する」という作業をこなしていただけでした。その報告の先にいる「相手(所属長)」が何を知りたいのか、何を判断したいのか、という視点が完全に抜け落ちていたのです。

所属長がレビューで知りたいのは、単なる事実の羅列ではありません。彼が知りたいのは、**「このプロジェクトを承認して、本当に大丈夫か?」**という一点です。その判断を下すために、以下の情報が必要だったはずです。

  1. 現状のサマリー(結論): 日程は厳しい状況にあるのか、順調なのか。
  2. 課題の特定: もし厳しいのであれば、具体的に「何が」「どのくらい」問題なのか。(例:A部品の納期が2週間遅延するリスクがある)
  3. 対策とアプローチ: その課題に対して、具体的に「誰が」「何を」「いつまでに」行うのか。(例:サプライヤーと交渉し、B部品の納期を1週間前倒しすることで吸収する。その担当は〇〇で、明日までに回答を得る)
  4. 今後の見通し(目処): 対策を講じた結果、最終的にオンスケジュールに戻る確率は何パーセントか。残存するリスクは何か。

僕の報告は、このうちの何一つも満たしていませんでした。ただ漠然と「タイトですが、連携して頑張ります」と精神論を語っていたに過ぎません。これでは、所属長が「GOサイン」を出せるはずがありません。

この失敗から僕が学んだのは、ビジネスにおける報告とは、「事実の伝達」ではなく、「相手の意思決定を助けるための情報提供」である、ということです。

【雑学①:なぜ伝わらない?ビジネスコミュニケーションの処方箋「PREP法」】

今回の僕のような失敗は、多くのビジネスパーソンが経験する道かもしれません。この「伝わらない病」に効く処方箋として、有名なフレームワークに「PREP法」があります。

  • P (Point): 結論・要点
  • R (Reason): 理由・根拠
  • E (Example): 具体例・データ
  • P (Point): 結論・要点の再確認

これを今回の僕のケースに当てはめて、報告を再構築してみましょう。

  • P (結論): 「結論から申し上げます。日程には2点の課題がありますが、対策を講じることで号口遵守は可能と判断しております。」
  • R (理由): 「理由としましては、主要課題であるA部品の納期遅延リスクに対し、代替サプライヤーの確保と、後工程の期間短縮という2つの有効な対策案があるためです。」
  • E (具体例): 「具体的には、A部品は〇〇社からの納期が現在2週間遅延する見込みです。対策として、△△社に代替生産を打診済みで、明日までに見積もり回答があります。並行して、後工程である組立ラインの準備を3日間前倒しする計画を生産技術部と協議中です。」
  • P (結論の再確認): 「つきましては、これらの対策を本日より本格的に実行するため、本プロジェクトの計画をご承認いただけますでしょうか。」

どうでしょうか。これなら、所属長はわずか1分で状況の核心を掴み、具体的な質疑応答や的確なアドバイスに移ることができるはずです。僕の報告に欠けていたのは、この「構造」と「相手への配慮」でした。

一日中、この反省で頭がいっぱいでした。短い時間で、何を、なぜ伝えたいのか。その「目的」を常に意識すること。そして、次回のリベンジの機会となる月曜日には、「課題 or いつもと違うポイントは何か」という切り口で会話を展開しようと、固く心に誓ったのです。

第二部:小さな手の温もり – 1週間の成長が教えてくれたこと

仕事の重たい空気を引きずったまま、僕は車を走らせ、妻と娘が待つ義実家へと向かいました。ドアを開けると、「おかえりなさい」という妻の優しい声と、小さな寝息が聞こえてきます。その瞬間に、僕の心を覆っていた灰色の霧が、すっと晴れていくのを感じました。

1週間ぶりの再会。たった7日間。しかし、腕に抱いた娘の重みは、心なしか少し増しているように感じます。そして、妻が「見て、最近これがお気に入りなの」と、カラフルなガラガラを娘の目の前に差し出した時、僕は息を呑みました。

娘が、その小さな手で、ガラガラを「掴もう」としているのです。

指が一本一本、ゆっくりと、しかし確実に、目標に向かって伸びていく。ほんの1週間前までは、偶然触れたものを握る「把握反射」に近かった動きが、明らかに「自分の意志で掴み取ろう」という動きに変わっている。その指の動きは、以前よりも少しだけ滑らかになっているように見えました。

その光景を見た瞬間、日中の仕事の失敗と、娘の成長が、僕の頭の中で不思議な線で結ばれました。

【雑学②:生後108日(約3ヶ月半)の赤ちゃんの驚異的な発達】

僕が感動した娘の成長は、この時期の赤ちゃんにとって、ごく自然で、しかし驚異的な発達の一端です。

生後3ヶ月から4ヶ月にかけての赤ちゃんは、まさに「発達の爆発期」を迎えます。

  • 首すわり: グラグラしていた首が安定し、縦抱きがしやすくなります。これにより、赤ちゃんの視界は劇的に広がり、世界を立体的に捉え始めます。
  • 追視の発達: 動くものを目で追いかける「追視」が上手になります。左右だけでなく、上下にも視線を動かせるようになり、ママやパパの顔をじっと見つめる時間が増えます。
  • ハンドリガード: 自分の「手」の存在に気づき、じっと見つめる「ハンドリガード」という行動が始まります。これは、自分の身体を認識し、意図的に動かそうとする第一歩であり、脳が急速に発達している証拠です。
  • ものを掴む動き: 僕が目にした「おもちゃを掴む動き」も、この時期の大きな成長です。これまで無意識だった反射(原始反射)が消え、目で見たものに手を伸ばし、掴むという「目と手の協応動作」が生まれ始めます。この一連の動きは、脳内の神経回路が複雑に結びついてきていることを示しています。

わずか1週間で、娘の世界は大きく広がっていたのです。誰に教わるでもなく、自分の内なる力で、課題(おもちゃを掴むこと)を見つけ、試行錯誤(手を伸ばす、指を動かす)を繰り返し、少しずつ成長(動きが滑らかになる)している。

その健気で力強い姿に、僕はハッとさせられました。

まとめ:目的意識は、愛から生まれる

今日の出図レビューで、僕に欠けていた「目的意識」。なぜ、僕はその報告をしていたのか。それは、**「このプロジェクトを成功させ、良い製品を世に送り出したいから」に他なりません。そして、その先には、「会社の利益に貢献し、家族との生活をより豊かにしたいから」**という、もっと根源的な想いがあるはずです。

しかし、日々の業務に追われる中で、その本質的な目的を見失い、「レビューを無事に通過させる」という、目先の作業をこなすこと自体が目的になってしまっていたのです。

一方、腕の中にいる娘の行動には、一点の曇りもありません。 彼女の目的は、ただ一つ。「目の前にある、面白そうなアレ(ガラガラ)に触れたい、掴みたい」。その純粋で強烈な目的が、彼女の手を動かし、指を動かし、脳を発達させているのです。

僕は、娘の小さな成長から、大切なことを二つ教わりました。

一つは、**「成長とは、常に課題とともにある」**ということ。 技術的な課題がないからといって、僕のプロジェクトに課題がないわけではありませんでした。「日程」という明確な課題があったにもかかわらず、僕はそれを見て見ぬふりをし、「さらっと」流そうとしてしまった。赤ちゃんが目の前のおもちゃに手を伸ばすように、ビジネスパーソンは目の前の課題に真摯に向き合い、どうすれば乗り越えられるかを考え、語らなければならないのです。

もう一つは、**「究極の目的意識は、愛から生まれる」**ということです。 仕事で「何のためにこれをやっているんだっけ?」と迷子になった時、立ち返るべき場所は、会社の理念や部門の目標だけではないのかもしれません。

僕にとって、それは腕の中で眠る娘の寝顔であり、久しぶりに会って微笑んでくれる妻の笑顔でした。この温かい日常を守りたい、もっと幸せにしたい。その想いが、困難なプロジェクトに立ち向かうための、最も強く、最も純粋な「目的」になる。

仕事で受けた指摘は、確かに痛かった。しかし、それは僕が成長するための、貴重なフィードバックです。氷のように冷たい会議室での失敗と、陽だまりのように温かい家族との再会。この両極端な出来事が、僕の中で一つの答えを導き出してくれました。

「課題から逃げず、目的を語ろう。その目的の根源には、家族への愛があることを忘れずにいよう」

月曜日の再レビューでは、もう迷うことはないでしょう。課題を明確にし、具体的な対策を提示し、そしてこのプロジェクトを成功させたいという強い意志を、自分の言葉で語ろうと思います。

土日は、たくさん遊ぼうね。 君がこの世界でたくさんの「面白いもの」を見つけ、手を伸ばし、掴み取っていく姿を、父さんは隣でずっと応援しているから。そして父さんも、君に負けないように、仕事という世界で、新しい課題に手を伸ばし続けていくよ。

長い一日でしたが、今はとても晴れやかな気持ちです。この記事が、同じように悩み、奮闘する誰かの心に、少しでも届くことを願って。

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