育休明けの評価面談で突きつけられた現実と、僕が会社で生き抜くために見つけた「2つの生存戦略」

シードのホームワーク

はじめに:パパになって106日、僕は浦島太郎になった

はじめまして。シードと申します。生後106日になる娘と、現在里帰り中の妻との3人暮らし。眠い目をこすりながらミルクを作り、慣れない手つきでおむつを替え、ようやく寝かしつけたと思ったら自分の時間はもう残っていない。そんな、世の親たちが経験するであろう、慌ただしくも愛おしい毎日を送っています。

ほんの数ヶ月前まで、僕は仕事に没頭する会社員でした。しかし、娘の誕生を機に育児休業を取得。社会から少しだけ距離を置き、生命の神秘と格闘する日々は、僕にとって何物にも代えがたい貴重な時間となりました。

そして先日、職場に復帰し、最初の大きなイベントである「評価面談」の日を迎えました。半期の成果を上司に報告し、フィードバックをもらう、会社員にとっては通知表のような日。しかし、僕の頭の中は真っ白でした。

それもそのはず。この半期を振り返ると、僕の業務経歴はこうです。

「担当製品の業務引継ぎ → 育児休業(約2ヶ月) → 復帰後、新製品担当へ異動」

…書くことが、ない。アピールできる「成果」と呼べるものが、何一つないのです。まるで浦島太郎が竜宮城から帰ってきたときのような、時間の流れと自分の立ち位置のズレ。社会との断絶が生んだ、キャリアの空白。その現実を、評価面談の場でまざまざと見せつけられることになったのです。

この経験は、僕に大きな衝撃と、そして同時に、会社という組織で生き抜き、成長していくための極めて重要な「気づき」を与えてくれました。

今日のブログは、単なる一個人の評価面談の顛末記ではありません。育休を取得した、あるいはこれから取得しようとしているパパ・ママ。キャリアの踊り場に立ち、今後の昇進や評価に漠然とした不安を抱えているビジネスパーソン。そんなすべての方々にとって、明日からの働き方が少し変わるかもしれない、「2つの生存戦略」について、僕自身の経験を交えながら、できる限り具体的にお話ししたいと思います。

評価面談という名の「現実直視イベント」

面談室のドアを開ける足取りは、鉛のように重かった。上司は僕の状況をよく理解してくれており、「シード君の状況は分かっているから、今回は形式的なものだと思ってリラックスして」と優しい言葉をかけてくれました。その言葉に少し安堵し、準備してきた資料(と言っても、ほぼ白紙に近いものですが)を開きました。

しかし、面談が始まると、その雰囲気は一変しました。上司の口調は穏やかでしたが、その指摘は僕のキャリアの核心を鋭く突くものでした。

「シード君、次の役職に上がりたいという気持ちは変わらないんだよな?」 「はい、もちろんです」 「だとしたら、今のままじゃ厳しいと言わざるを得ない。育休があったから、というのは理由にならない。これから半年、どう動くかが勝負だ」

上司が指摘したのは、2つの極めてシンプルな、しかし僕が完全に見過ごしていた視点でした。

  1. 君の業務は、そもそも『上位方針』と繋がっているか?
  2. 君は、『次の役職の要件』を満たすための仕事をしているか?

この2つの問いは、僕の頭をガツンと殴られたような衝撃を与えました。僕はこれまで、目の前の業務をいかに効率よく、いかに高い品質でこなすか、ということばかりに囚われていました。しかし、上司の言葉は、「会社」という大きな船の上で、自分がどの方向を向いてオールを漕ぐべきなのか、という羅針盤の重要性を示していたのです。

【雑学①】男性育休の普及と「キャリアのブランク」という新たな課題

ここで少し、現代の育休事情について触れたいと思います。厚生労働省の発表によると、日本の男性の育児休業取得率は年々上昇傾向にあります。2023年度の雇用均等基本調査では、男性の育休取得率は**17.13%**となり、過去最高を更新しました。これは、法改正による後押しや、社会全体の意識の変化がもたらした喜ばしい結果です。

しかし、その一方で新たな課題も浮き彫りになっています。それが「取るだけ育休」問題と、それに伴う「キャリアのブランク」への不安です。育休の取得が目的化してしまい、復帰後のキャリアパスが描けていない。あるいは、私のように、復帰直後に評価期間を迎えるものの、アピールできる成果がなく、昇進・昇格のレールから一時的に外れてしまう、といったケースです。

育休は、決してキャリアの「停止」期間ではありません。むしろ、これまでの働き方を見つめ直し、新たなスキルを獲得する絶好の「投資」期間となり得ます。例えば、

  • タイムマネジメント能力: 刻一刻と変わる赤ちゃんの状況に合わせ、限られた時間で家事・育児をこなす経験は、仕事の段取り力を飛躍的に向上させます。
  • マルチタスク能力: ミルクを温めながら、おむつを替え、洗濯機を回す。育児はマルチタスクの連続です。
  • 交渉力・調整力: パートナーと家事・育児の分担を話し合ったり、子どもの要求を汲み取って最適な解を探したりする経験は、職場でのコミュニケーションにも活かされます。

これらの「ポータブルスキル(持ち運び可能なスキル)」は、育休という環境だからこそ劇的に鍛えられるのです。しかし、僕自身がそうであったように、多くの人はこの価値に気づかず、「仕事から離れていた」という事実だけをネガティブに捉えがちです。

評価面談で成果が書けないという現実は、育休を取得した者が直面する一つの壁です。しかし、その壁を乗り越えるヒントこそが、上司が僕に示してくれた2つの視点に隠されていました。

生存戦略①:会社という船の「羅針盤」を読め ~上位方針から逆算する目標設定~

上司からの第一の指摘、「君の業務は、そもそも『上位方針』と繋がっているか?」。

「上位方針」とは、会社や部署がその期間(半年や一年)で、特にどこに力を入れていきたいかを示した、いわば「航海図」です。そこには、「新規顧客を〇〇%増やす」「新製品Aの市場シェアを〇%獲得する」「業務効率を〇〇%改善する」といった、組織全体の目標が掲げられています。

会社は、この航海図に描かれた目的地に向かって進む巨大な船です。私たち従業員は、その船を動かす漕ぎ手。もし、漕ぎ手がそれぞれバラバラの方向を向いてオールを漕いでいたら、船は前に進むどころか、その場でグルグルと回ってしまうでしょう。

上司が言いたかったのは、まさにこのことでした。「君が自分の業務を上位方針に紐づけてアピールする」ということは、「私は、この船が目指す目的地に向かって、正しくオールを漕いでいますよ」と船長(=会社・上司)に証明することなのです。逆に言えば、どれだけ一生懸命オールを漕いでいても、向いている方向が違えば、それは会社にとっては「貢献」とは見なされにくい、という厳しい現実があります。

僕はこの指摘を受け、ハッとしました。新しい製品の担当になった僕は、「まずはこの製品の仕様を覚えなければ」「目の前のタスクを早くこなさなければ」と、自分の足元しか見ていませんでした。その製品が、部署の、そして会社のどのような目標(上位方針)に貢献するために開発されたものなのか、という視点が完全に欠落していたのです。

【雑学②】あなたの会社はどっち?目標管理のフレームワーク「MBO」と「OKR」

この「上位方針と個人の目標をリンクさせる」という考え方は、多くの企業で導入されている目標管理のフレームワークにも見て取れます。代表的なものが「MBO」と「OKR」です。

  • MBO (Management by Objectives / 目標による管理) 経営学の父、ピーター・ドラッカーが提唱した考え方で、日本の多くの企業が導入していると言われています。個人またはグループごとに目標を設定し、その達成度合いで評価を決める手法です。トップダウンで組織目標が個人目標にブレイクダウンされるのが特徴で、評価制度と直結しやすいという側面があります。まさに、私の上司が指摘した「上位方針に紐づいた業務」を管理するための王道的なフレームワークです。
  • OKR (Objectives and Key Results / 目標と主要な結果) GoogleやFacebook(現Meta)などが採用し、近年注目を集めているフレームワークです。「Objectives(目標)」と、その目標の達成度を測るための具体的な指標である「Key Results(主要な結果)」を設定します。OKRの特徴は、MBOよりも高い頻度(例えば四半期ごと)で見直しを行うこと、そして、達成度が60~70%程度となるような、少し高めの挑戦的な目標(ストレッチゴール)を設定することが推奨されている点です。また、個人のOKRはチームや会社のOKRと公開・共有され、組織全体の一体感を醸成することを重視します。

どちらのフレームワークが良いという話ではありません。重要なのは、「組織の目標」と「個人の目標」が常につながっており、自分の仕事が組織のどの部分に貢献しているのかを意識することです。

この日から、僕の仕事への向き合い方は変わりました。まずは、部署の上位方針が書かれた資料を穴が開くほど読み込みました。そして、自分の担当する新製品が、その中のどの項目(例えば「高付加価値製品による収益率向上」)に該当するのかを明確にしました。

その上で、日々の業務をこう再定義していったのです。 「この資料作成は、製品の魅力を伝え、収益率向上に貢献するための第一歩だ」 「この打ち合わせは、関係部署を巻き込み、プロジェクトを円滑に進めることで、結果的に市場投入を早め、シェア獲得という上位方針に繋がる」

このように、一つ一つのタスクに「上位方針との繋がり」という意味付けをするだけで、仕事の解像度が格段に上がり、モチベーションも向上しました。そして何より、次の評価面談で、自分が何を語るべきかが明確になったのです。

生存戦略②:未来の自分を「演じる」~次の役職の要件から逆算する業務遂行~

上司からの第二の指摘、「君は、『次の役職の要件』を満たすための仕事をしているか?」。

私の会社は、多くの日本企業が採用しているであろう「役割等級制度」に近いシステムになっています。これは、年齢や勤続年数ではなく、その人に任されている「役割(Role)」の大きさや重要度に応じて等級(Grade)が決められる制度です。そして、昇格するためには、「現在の等級の役割を完璧にこなしている」ことだけでは不十分で、**「一つ上の等級の役割を、既に一部遂行できている」**ことが暗黙の了解、あるいは明確な要件として求められます。

つまり、会社はこう言っているのです。 「リーダーになりたいなら、メンバーの段階からリーダーシップを発揮して見せなさい」 「課長になりたいなら、係長の段階から課長のような視点で部署全体を見てみなさい」

これは、ある意味で非常にフェアなシステムです。実績を示した者だけが、次のステージに進む権利を得られる。しかし、日々の業務に追われていると、この視点は驚くほど簡単に抜け落ちてしまいます。僕もそうでした。「今の担当業務をこなすので精一杯。上の役職のことなんて考える余裕はない」と。

上司の指摘は、そんな僕に「視座を上げろ」という強烈なメッセージでした。今の仕事は、あくまで次の役職に上がるための「舞台」に過ぎない。その舞台の上で、いかに「未来の自分(次の役職の自分)」を演じきれるか。それが、評価面談というオーディションを突破するための鍵なのだと。

【雑学③】キャリアの停滞を打破する「アンラーニング」と「リスキリング」

この「一つ上の視点を持つ」という行為は、言うは易く行うは難しです。なぜなら、人間は過去の成功体験に縛られがちだからです。今の等級で評価されてきたやり方、考え方に固執してしまう。この状態を打破するために、近年「アンラーニング(学習棄却)」と「リスキリング(学び直し)」という考え方が注目されています。

  • アンラーニング (Unlearning) これは、単に知識を忘れることではありません。これまで自分が持っていた古い価値観や仕事の進め方が、現在の環境や目指すべき役職において、もはや有効ではないと認識し、それを意識的に手放すプロセスを指します。例えば、「担当者としては、自分で抱え込んで完璧に仕上げることが最善だったが、リーダーとしては、メンバーに仕事を任せ、全体の進捗を管理する方が重要だ」といったように、思考のOSを入れ替えるようなイメージです。
  • リスキリング (Reskilling) デジタル化の進展など、事業環境の変化に対応するために、新しいスキルや知識を習得することです。しかし、これは単なるスキルアップとは少し異なります。重要なのは、「これから求められる役割」を明確にし、その役割を果たすために必要なスキルを戦略的に身につけていく、という視点です。

僕の場合、まずは自社の人事制度の資料を読み込み、「次の等級」に求められる要件(コンピテンシー)を徹底的に分析しました。「課題設定能力」「関係者調整能力」「後輩育成」といったキーワードが並んでいました。

そして、日々の業務の中で、これらの要件を意識的に「練習」し始めました。

  • 課題設定能力: ただ言われたことをやるだけでなく、「この業務の本当の目的は何か?」「もっと良くするためには、どんな課題があるだろうか?」と自問自答し、改善提案を上司にぶつけてみる。
  • 関係者調整能力: これまでは自分の部署だけで完結させていた仕事も、あえて他部署の担当者に意見を聞きに行き、より広い視点で物事を進めようと試みる。
  • 後輩育成: まだ育成する立場ではないが、チーム内に新しく入ってきた後輩に対して、積極的に声をかけ、自分の知っている知識やノウハウを惜しみなく共有する。

これらは、すぐには評価に繋がらないかもしれません。しかし、この「一つ上の役職ごっこ」とも言える日々の小さな積み重ねが、半年後、一年後の自分を確実に変えていく。上司は、僕のその「伸びしろ」と「ポテンシャル」を見たいのだと、そう確信しました。

まとめ:評価面談は「未来の自分」への招待状である

育休明けの評価面談。あれから数ヶ月が経ち、娘はもうすぐ寝返りが打てるようになります。僕の日常は相変わらず育児と仕事に追われていますが、仕事に対する意識は、あの日を境に劇的に変わりました。

評価面談は、過去の成果を裁定される「審判の場」であると同時に、未来のキャリアへのヒントが散りばめられた「宝探しの場」でもあります。上司からの厳しい指摘は、僕を否定するためではなく、僕が次のステージに進むための「招待状」だったのです。

今回僕が学んだ、会社で生き抜くための2つの生存戦略。

  1. 上位方針(会社の羅針盤)から逆算し、自分の仕事の「意味」を定義する。
  2. 次の役職の要件(未来の自分)から逆算し、日々の業務で「役割」を演じる。

この2つの軸を持つことで、日々の仕事は単なるタスクの消化ではなく、自分の市場価値を高め、キャリアを主体的に形成していくための戦略的な活動へと変わります。

育休という貴重な時間を得て、僕は父親になりました。そして、この評価面談という経験を経て、僕は「会社員」として、第二の誕生日を迎えたような気がしています。キャリアのブランクは、視点を変えれば、これまでの働き方を見つめ直し、新たなスタートを切るための絶好のジャンプ台になり得るのです。

もしあなたが、今の評価やキャリアに漠然とした不安を抱えているなら、ぜひ一度、この2つの視点で自分の仕事を見つめ直してみてください。きっとそこには、あなたが次に進むべき道を示す、確かな光が見えるはずです。僕も、半年後の評価面談で胸を張って成果を語れるよう、日々の「練習」を続けていこうと思います。

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